交通事故の賠償責任は自己破産しても免責されないのか?
もはや自力での借金返済が不可能になった場合に講じる手段が債務整理であり、その中でも最終手段と言われるものが自己破産です。
自己破産が最も強力な債務整理手段だと言われるのは、自己破産すると基本的に合法的に借金が全部チャラになる免責許可を受けることができるからです。
では、交通事故を起こしてしまい、その損害賠償の債務を背負っている加害者が借金のために自己破産する場合には、免責されるのでしょうか?
ざっくりと言えば、交通事故加害者が物損事故を起こした場合には、修理代等の損害賠償債務は自己破産が成立することによって免責されることになっています。
一方、人身事故で、相手の被害者に怪我をさせた場合にはそうもいきません。
もしも、この交通事故で加害者に「重大な過失」が認められる場合には、治療費および慰謝料、更に休業損害等の損害賠償債務は免責されなくなります。
これを、非免責債権と呼びます。
この交通事故が人身事故の場合でも、「単なる過失」であった場合には、免責されます。
あちこちに借金を重ねて自己破産を検討するほどの人は、自賠責のみで任意保険に加入していない人も少なくありません。
物損事故の被害者にとっては、自己破産で修理代等の損害賠償債務が免責されるとなったら、とんでもない災難という他ありませんよね。
そもそも、この交通事故における「重大な過失」が認められるケースとはどのようなケースなのでしょうか?
更に、実際に自己破産を進めているような債務者が交通事故を起こした場合に、損害賠償問題に発展する場合にはどうすべきなのでしょうか?
ここでは、以下において、自己破産を進めている債務者が交通事故を起こして賠償責任が生じた場合に、免責されない「重大な過失」はどういったもので、どう対処すればよいかを考察していきます。
重大な過失とはどういったことなのか?
交通事故を起こして「重大な過失」があると認められ、自己破産でも免責されない非免責債権となってしまうようなケースとは具体的にどのようなものなのでしょうか?
これは、法律的に言えば、破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」というものに該当するケースです。
通例、常識的に考えればこのような「わざと」しかも、より積極的に相手に害を与えてやろうとするような悪意に満ちた行為は、交通事故においては少ないと思います。
また、交通裁判においては、裁判官によって「重大な過失」と判断されたからと言って、自己破産においてそれがイコールで非免責債権になるとも限りません。
一般的に、交通事故を扱う交通裁判において、「重大な過失」と判断される代表的な事例を以下にざっと挙げておきます。
酒酔い運転
アルコールを飲んでいるのに車を運転する意思を持つこと自体が、悪意のある過失であると考えることは十分可能です。
居眠り運転
これは微妙な判断になります。
無免許運転
違法行為がわかりきっている危険な行為であり、悪意があると解釈することは十分可能です。
法定速度を30km以上オーバーした速度違反などの危険運転
危険運転の代表的なものであり、悪意で加えた不法行為に該当する確率は非常に高くなります。
過労や病気
これは悪意や故意による過失とは言い難いケースも多く、裁判官の判断によって大きく異なります。
薬物の影響により正常な運転ができない状態の運転
これも不可避の治療薬の副作用などの影響なのか、危険ドラッグ等の違法な薬物なのかで大きく判断は分かれます。
以上のように、交通事故の場合には、裁判官の判断によって「重大な過失」か否かの判断がわかれるケースも多いことがわかります。
交通裁判での判断と破産裁判での判断は別物!
交通事故を起こした場合の交通裁判は、一般的に刑事事件を扱う裁判です。
刑事事件で、「危険運転致死傷罪」や「無免許運転」などの悪質性の高いケースの場合には、交通事故を起こした加害者が自己破産を申請中の人だった場合は次のようになります。
この場合には、民事裁判となる損害賠償請求においても、破産法253条1項3号の「故意に匹敵する重大な過失」に該当すると見なされ、自己破産しても非免責債権になる可能性が高くなります。
つまり、このような悪意の認められる悪質な交通事故の場合には、自己破産しても加害者の損賠賠償は免責されない可能性が高い、ということです。
一方、交通事故でも「過失運転致傷罪」に問われるケースは微妙になります。
故意ではなく、悪意も認められない単純な運転ミスや不注意によって引き起こされた交通事故の場合には、「重大な過失」とまでは認められないケースがほとんどでしょう。
このケースにおいては、民事裁判となる損害賠償請求においても責任の度合いは軽度になります。
よってこの場合には、自己破産手続きを進める破産裁判においても、損害賠償債務は免責される確率は高くなります。
危険運転は絶対にしてはいけないこと!
以上のように、多重債務で苦しんで自己破産を検討するような債務者は、任意保険も加入していない人も多いのです。
大前提として、そのような任意保険すらまともに加入していないような自己破産申立人は、車の運転に関しても人一倍慎重でなくてはならないのです。
間違っても危険運転などしてはならないのです!
現実にある事例としても、自己破産手続き中の債務者が危険運転をして交通事故を起こし、重大な過失として損害賠償請求を訴えられるケースは頻発しています。
この場合には、悪質性の高い交通事故として、自己破産手続き中であっても、非免責債権として認められ、免責にならないケースも多く成立しているのです。
更に、こういった交通事故の場合には、余分にお金を払う場合もありますし、刑事罰として、懲役や罰金を支払わなくてはならない可能性もでてくるわけです。
ですから、返す返すも自己破産を考えるほどの多重債務者、殊に任意保険すらお金が無くて払えないような人は、肝に銘じて危険運転などしてはいけません!
免責にならないという次元以前に、人間として戒めなければならない基本事項です。
まとめ
自己破産手続き中や自己破産を検討中の多重債務者が、交通事故を起こしてしまった場合、その損害賠償が非免責債権となって免責されないケースについて考察してきました。
「重大な過失」とその交通事故が認められるか否かで、その判断は変わってきます。
危険運転や無免許運転などの悪質性の高い行為から引き起こされた交通事故の場合は論外ということはわかりましたね。
これらのケースでは、その損害賠償は免責とならず、非免責債権となる確率は大きく上がると思っておいてください。
それ以前に、任意保険にも加入できないほど経済的に切迫した自己破産申立人でありながら、危険運転や無免許運転などをすること自体がありえないわけです。
そのような公共性の低い道徳心も欠如した人間であるならば、免責など受ける資格はないことは法律以前に当然だと思います。