自己破産申立てで破産管財人が選任される目的とは?
多重債務を抱えて、もはや借金を自力では返済しきれないと判断した場合には、多くの場合、自己破産という選択肢を現実的に考えます。
この自己破産は、住民票のある管轄の地方裁判所に申し立てることが普通ですが、その実際に自己破産の手続きを開始する際に、案件ごとに振り分けられます。
ざっくり言えば、自己破産を申し立てる債務者が、換価可能な財産を持っているか、特に何の財産持たないか、によって同じ自己破産でも案件が分かれるのです。
自己破産の申立人に財産が無い場合には、お金を貸している債権者へ配当手続きをする必要が生じません。
なので、必然的に、自己破産の手続き開始と同時に、配当手続きが終了します。
ですから、この場合の自己破産の案件を「同時廃止」といいます。
一方で、自己破産の申立人に換価可能である財産がある場合には、それらの財産は裁判所によって差し押さえられ、処分された後に、債権者に分配されます。
この財産の目安は、20万円以上の価値が付く資産、及び現金なら99万円以上が対象となります。
このケースの自己破産を、管財事件と呼びます。
この管財事件の場合の財産(資産)を差し押さえて、査定して処分、売却を行うのが、破産管財人です。
破産管財人は裁判所が弁護士資格を有する者のなかから選任します。
破産管財人を選任する意義はたくさんありますが、その主な仕事は、裁判所の指示に従い申し立てられた自己破産の手続きに不審な点や不備は無いか?をチェックしていきます。
特に、財産隠しなどの不正は無いかを、念入りにチェックしていくのが破産管財人の仕事です。
破産管財人は、管財事件には付き物の存在であり、自己破産の申立人の財産(資産)を管理、処分し債権者に正しく配当するために居なくてはならない存在です。
そのために、申立人が不正を働いたり、財産隠しなどの隠ぺい工作を行っている場合には、ただちに見破らなくてはならないわけです。
一般に、破産管財人が選任されない同時廃止事件においては、裁判所で裁判官から受ける質問である審問だけで済みます。
しかし、破産管財人が選任される自己破産案件である管財事件においては、審問とは別に、破産管財人の事務所で事情聴取が行われます。
とはいっても、破産管財人はそんなに怖い人ではなく普通の弁護士さんなので、財産隠しや虚偽の報告など、やましいことをしていなければ、怖がる必要はまったくない存在です。
しかし、善からぬ企みがあったり、財産隠しなどを行っている不誠実な自己破産申立人にとっては、破産管財人はとても恐ろしい存在となるでしょう。
以下では、この破産管財人の仕事や、財産隠しなど不正があった場合の役割などについて少し掘り下げて考えてみましょう。
破産管財人が債務者の財産を取り戻す場合もある
自己破産を申し立てた債務者に換価処分する価値がある財産を所有している管財事件の場合-。
自己破産の手続きにおいては、債務者の自由財産を除くすべての財産(資産)は売却されます。
そして、その売却代金は、お金を自己破産の申立人に貸している債権者たちに分配されます。
この一連の業務を執り行うのが破産管財人です。
自己破産の申立人の財産には、ざっくり分けて2つの種類があります。
1つ目は、自己破産の申立人が現在保有している財産です。
これは、自宅の土地や家屋、車や貴金属類、それに銀行口座にある現金などが代表的なものです。
これらの財産の換価価値が20万円を超えるもの(現金の場合には99万円以上)は、破産管財人が差し押さえて売却して、債権者に配当する決まりとなっています。
2つ目は、現在保有していない財産です。
これはどういったものか?といえば、代表的なものは、「借金の過払い金」が有名です。
この他にも、友人知人に貸しているお金や、詐欺被害で騙し取られたお金、なんてものもこの現在保有していない財産に含まれます。
そして、管財事件の場合に、特に破産管財人が注意を払っている「現在保有していない財産」というものがあります。
それは、自己破産の申立人が「財産隠し」を行っている財産です。
この財産隠しは、管財事件においては思いのほか多いようです。
財産隠しとは具体的にどういったものかを簡単に説明しておくと、要するに、自己破産の申立人の財産を他人名義に書き換えて、自分の財産ではないフリをして申告しないというものです。
財産が実際はあるのに、財産隠しをして、自己破産の申し立ての際にも申告しないわけです。
この財産隠しに対して、破産管財人は特に目を光らせてチェックしていきます。
こういった財産隠しによる「現在保有していない財産」が申立人にあることが判明した場合には、破産管財人は、これらを代理人となって回収していきます。
そして、財産隠しに名義を書き換えられている相手が素直に応じない場合には、破産管財人は裁判を起こして争うことになります。
この裁判は長期間かかるので、こういう財産隠しを行うような拗れたケースの場合には、自己破産の手続きの期間は相当長期化すると思っていいです。
その他、破産管財人が調査すること
破産管財人が裁判所によって選任される案件においては、以下のようなチェックが入ります。
◎債務者宛の郵便物は全て破産管財人の事務所に転送される。
自己破産を申し立て、破産管財人が選任される場合には、申立人が財産隠しを行っていないか?自己破産の申立書に記載したもの以外に負債が無いか?などをチェックするために行われることです。
しかも、破産管財人はこれらすべての郵便物を本人の承諾を得ないで開封し中身を確認する権限を持ちます。
ですが、よほど怪しい不審な財産隠しや借金問題に係わるような郵便物出ない限り普通は、いくら破産管財人といえども開封することはないので、疾しいことがなければ安心して良いと思います。
◎銀行などの預金通帳は全て破産管財人に預けなければならない
これは預金口座のお金はすべて資産となるので、債権者に分配しなければならないという主旨ですが、その主な目的は、やはり財産隠しに口座が使われることを防止するためです。
ただし、口座の通帳をすべて破産管財人に預けなくてはいけない場合であっても、それらの口座に預けているお金が使えないわけではないので、家賃や光熱費といった通常の支払いに使うことは支障なくできます。
要するに、お金の不審な流れなど財産隠しに繋がることをチェックし防止するための措置なだけですから。
ここまで調査されても、破産管財人の費用(報酬)が必要になる
これほど見張られて財産隠しなどを厳しくチェックされる自己破産の申立人にとっては、煙たい存在である破産管財人ですが、彼らはボランティアで働いているわけではありません。
破産管財人が選任されると、破産管財人には報酬を支払わなくてはならないのです。
そしてその報酬は、当然のことながら、自己破産の申立人が負担しなくてはならないわけです。
財産隠しなどを常にチェックされ、郵便物は全部チェックされ、通帳まで取り上げられて管理されて、その上に報酬まで支払わなくてならないなんて踏んだり蹴ったりだ!と言うかもしれませんが、決まりなのでしかたありませんね。
破産管財人に支払う報酬金額は、申し立てた自己破産の内容によって異なりますが、だいたい相場は20万円~となっているようです。
債務者は、破産管財人など必要ないと言うかもしれませんが、破産管財人が選任される管財事件では、実際に財産隠しなどが起こるケースも多いので、債権者の目線からも必要不可欠な存在なのです。
まとめ
破産管財人が選任される理由がなんとなく理解できたのではないでしょうか?
破産管財人は、財産を換価処分して債権者に配当するために、自己破産の申立人に財産隠しなどの不正がないかどうかをチェックする存在として必要不可欠なのです。