自己破産したら海外旅行や、引っ越しは自由にできないのか?
かつての日本社会は、長らく「1億総中流社会」などと呼ばれて、世界でも稀有な格差の無い社会でした。
日本がまだ経済成長を続けていて、いわゆるバブル崩壊まではそういった横並びが当たり前とされる国民の経済分布状態だったわけです。
しかし、近年は、すっかり世界経済の市場経済化の流れに巻き込まれ、日本も貧富の格差が拡大しています。
一部の富裕層はますます富む一方で、マジョリティーである労働者階級では、非正規雇用の派遣社員などの割合も年々増えて、その労働条件は悪く、賃金も低賃金のまま抑えられているのが実態です。
このような事情に、昨今の大学生の実に半数が奨学金を貸与されて大学に進学しているという実情が被さります。
せっかく大学を卒業しても、ブラック企業などで、劣悪な労働環境で辞めざるを得なくなったり、給与が安く生活苦に陥ったりして、就職してから、奨学金の返済がままならない人が増大しています。
このような人々は、月々の支払いと生活費が、給与だけでは足りないために、アチコチから借金をして賄うようになり、いずれそれが積もり積もって債務超過になってしまいます。
こうなってしまうと、自力で借金を返済していくことは不可能になるので、債務整理を行う他なくなるわけです。
特に、奨学金のような莫大な額の債務を抱えている場合には、自己破産する人の割合は年々大きくなっています。
このように一向に減らないどころか、社会構造的な欠陥を放置しているために増える一方な自己破産予備軍ですが、自己破産に関する様々な噂のために二の足を踏んでいる人も少なくありません。
そのような噂の中には、自己破産すると海外旅行をはじめとする旅行に行けなくなるらしい、とか、引っ越しができなくなるらしい、といった制限に関するものがあります。
ここでは、以下でそのような自己破産と海外旅行や、引っ越しの関係などについて少し掘り下げて考察していきたいと思います。
どういう場合に旅行や引っ越しが制限されるのか?
まず、あなたが多重債務などで借金でクビが回らない状態に陥ってしまい、自己破産を真剣に考える時-。
まず、あなたの置かれている状況で、その自己破産の種類はざっくりと2種類に分けられます。
あなたが、特に財産も無い場合には、裁判所に自己破産を申し立てすると、同時廃止という案件で扱われることになります。
同時廃止は、処分する財産もないために手続きも最低限で簡潔であり、その手続きに費やす時間も最低限で済むのが通常です。
同時廃止の場合には、破産手続きを開始して、手続きが終わり、自己破産が認められて、免責許可決定が下りるまで、約3か月~半年が目安です。
これに対して、あなたが自己破産を申し立てる時に、持ち家や土地、自家用車や有価証券や保険といった金融資産を所有している場合には、管財事件として扱われることになります。
管財事件になると、財産の調査をまずする必要があるので、破産管財人が全ての財産をチェックするプロセスに入ります。
その過程で、換価処分に値する財産(資産)はすべて差押えられて、没収され、換価処分されて、債権者に平等に配当される仕組みになっているのです。
管財事件の手続きの開始~破産が成立して免責許可が確定するまでの期間が、旅行や引っ越しの制限を受ける期間なのです。
ですから、この噂に関しては、あながち間違いでもないということになります。
ちなみに、管財事件の場合、手続きの開始~破産が成立して免責許可が確定するまでの期間というのは、約半年~1年間といったところで、割と長期間になります。
この期間に関しては、まず海外旅行は禁止です。
海外旅行と同等の扱いで、長期に及ぶ国内旅行も禁止です。
これは破産法によって定められていて、この期間に勝手に海外旅行や、長期の国内旅行を行った場合には、1年以下の懲役または5万円以下の罰金の刑罰を受けます。
ただし、これらの旅行に関しては、特例措置もあります。
つまり、裁判所に事情を説明して、許可を受ければ、海外旅行も、長期の国内旅行も行くことができるようになるのです。
次に、この期間は、引っ越しも制限を受けます。
これは、破産法第37条にある「破産者の居住制限」に規定されているものです。
とはいっても、この引っ越しの禁止や海外旅行や長期の国内旅行の制限も、このせいぜい長くても1年の間だけのことなので、なんとか凌いで耐えてください。
なぜ、旅行や引っ越しの制限がされるのか?
このような、破産手続き期間の制限、制約がなぜなされるのか?と言えば、「連絡が取れるようにするため」です。
現代においては、携帯、スマホをほぼすべての人が持っているぐらい普及していますが、自己破産をするほどの経済状態が困窮した人は、携帯料金未払いなどで繋がらないことも多いのです。
このようなケースでは、一定の決まった住居に郵便で連絡を行うことになりますが、自己破産手続きの期間中に勝手に住民票を移して引っ越されてしまうと、裁判所からの郵便物による連絡が届かなくなるためです。
ですので、破産申請者の居所は常に明確にしておく必要があるのです。
自己破産手続きを、弁護士に依頼している場合には、2~3日家を空けるような場合であっても、事前にキチンとその旨を伝えておき、行先や連絡先などもしっかり教えてから出かけるようにしてください。
自己破産手続き中の旅行は何日までなら大丈夫か?
自己破産を申し立てして、破産手続きを開始してから、自己破産宣告を受けて、免責許可が確定するまでの期間は原則として、旅行は禁止です。
しかし、程度の問題で、手続きを依頼している弁護士や司法書士などと、綿密に連絡を取って打ち合わせておけば、2~3日程度なら、旅行へ行っても特に問題は無いと思われます。
これはあくまで目安であって、ケースバイケースで絶対ではないということは織り込んでおいてください。
ですが、もし1週間以上の期間どこかへ旅行へ行くような場合には、弁護士はもちろん、裁判所にも事情を説明して、理解を求め、許可を取っておくことが大事です。
あなたが自己破産手続き期間であっても、あなたの妻や子供などの家族には制限は及びません。
よって、家族は、どこへ旅行しようが当然自由です。
しかし、家族単位であなたも一緒に行動する地方の実家への帰省であったり、遠方への結婚式や葬式などの場合には、あなたは然るべき許可を裁判所にしっかり受けてからでないと違法行為になりますので注意してください。
とにかく、この破産手続きの期間中は、どこへ行くにも、弁護士や司法書士、そして場合によっては裁判所との密な連絡だけは怠らないように心がけましょう。
まとめ
以上、あなたが自己破産を検討しているケースで、どんな場合に、旅行や引っ越しの制限を受けるのか?などを中心に掘り下げて考えてきました。
海外旅行や国内旅行、そして引っ越しが、なぜ、手続きの期間中は原則として禁じられているか?という理由はご理解いただけたのではないかと思います。
要するに、破産手続きを進めているプロセスでは、常に裁判所と連絡の取れる状態にスタンバイしておかなくてはならないということから派生している制限というわけなのです。
ですので、自己破産を依頼した担当の弁護士や司法書士は当然のことながら、裁判所とも、緊密に連絡ややり取りを行う姿勢を見せておくことはとても重要なことだと考えます。
とはいっても、自己破産が認められて、免責許可を受けた後では、旅行も引っ越しも自由にできるようになるので、破産手続きの期間はできるだけルールを守ってほしいと思います。